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林達也

教授
当研究室の指導教員

メッセージ
骨格筋の代謝を活性化することは、現代人が「生活習慣病」にかからず、元気で長生きするための必須条件なのではないかと考えています。私はもともと「糖尿病が運動によってなぜよくなるのか」に興味があってこの分野に足を踏み入れましたが、運動に限らず生薬や食品を含めて広く研究してゆきたいと思っています。

略歴
昭和61年京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院内科研修医、市立舞鶴市民病院内科勤務を経て、平成2年京都大学大学院第2内科(現内分泌・代謝内科)入学、糖尿病診療および糖尿病の運動療法、インスリンシグナル伝達経路に関する研究に従事、平成8年京都大学博士(医学)。その後、Harvard Medical School, Joslin Diabetes Centerポスドク、京都大学内分泌・代謝内科助手を経て、平成16年より人間・環境学研究科助教授、平成19年より准教授、平成24年より教授、現在に至る。

全学的な役職として平成25年度から学生総合支援センター 障害学生支援ルーム室長、令和4年度からは改組に伴い学生総合支援機構 障害学生支援部門長を兼務している。
Disability Resource Center (DRC)

平成28年度から2年間は国際高等教育院企画評価専門委員を担当した。
国際高等教育院

平成29年度科学研究費審査委員表彰受賞
平成29年度表彰者一覧


所属学会・専門資格等
日本内科学会(総合内科専門医)・日本糖尿病学会(専門医・研修指導医・学術評議員・日本糖尿病協会療養指導医)・日本肥満学会(評議員)・日本内分泌学会(評議員)・日本パラスポーツ協会 障がい者スポーツ医

メールアドレス:tatsuya(at)kuhp.kyoto-u.ac.jp


最近の著作より

公益財団法人 「道拓(The 15th Anniversary of TMFC)」(2010年2月発行)より引用


薬物治療の進歩は運動療法の適正化をもたらす

 運動療法は、食事療法とともに2型糖尿病や肥満症の基本的治療法として位置づけられている。そして薬物療法は、これらの生活習慣修正によって不十分な場合に用いることが原則となっている。しかし、この原則を遵守しようとすると、運動療法のメニューは、有酸素運動を中心としたものに固定化されてしまう。

 たしかに、有酸素運動は、2型糖尿病や肥満症の病態改善という観点からは有用である。血糖降下作用や内臓脂肪減少作用があるのみならず、血圧低下、血清脂質プロファイル改善、インスリン抵抗性軽減などを介した心血管リスクの減少効果も期待できる。

 しかしながら、運動の効果には、有酸素運動によって得にくいものが多くある。たとえば、普段からストレッチングを行っておくことで、高齢になってからも関節可動域を広く維持することが可能である。レジスタンストレーニングによって、体幹部や四肢の筋力を維持することは、独力で生活するために重要な要素である。緊急時に咄嗟に逃げる能力を向上させるには、階段かけ上がりのような、無酸素的、瞬発的なトレーニングが効果的である。また、平衡能力を保持するためのバランストレーニングや俊敏性トレーニングも、転倒の防止の観点から意味のあることである。

 有酸素運動の難点に「効果を出すには時間がかかる」ということがある。一般に、1日1時間を目標として有酸素運動を行うことが推奨される。もし有酸素運動にかける時間を短縮して、その分を他のトレーニングにまわしてもよいなら、それはすばらしいことである。ストレッチングも、レジスタンストレーニングも、10分もあれば主要部位のトレーニングを行うことができる。

 薬物療法の進歩は、一見すると、生活習慣修正の臨床的意義を矮小化するように見えるかもしれない。しかし、ことに運動療法に関してはこのことはあてはまらない。もし運動療法に負荷される病態改善への期待を軽減することができれば、現在の有酸素運動を中心とせざるを得ない現況から脱皮して、より広い観点から運動処方を組むことができるようになる。つまり、強力かつ安全な薬物の出現は、疾患の改善を主目的とした運動療法から、総合的な身体活動能力の維持・向上を目指した運動療法へと、より適切な方向へのパラダイムシフトを生じさせる。本研究会はこの方向に向かって進んでいる研究会であり、その成果に大きく期待する。


公益財団法人 「道拓(The 20th Anniversary of TMFC)」(2016年3月発行)より引用

私の医学研究 ―風が吹けば桶屋が儲かる―

 1990年、私は京都大学第2内科の大学院生になり糖尿病研究室に所属した。初めは右も左もわからなかったが、数年経つうちに、自分が面白いと感じる研究テーマは何なのかが次第にわかってきた。それは一言で言えば「メカニズムの解明」であり、落語で言えば「風が吹けば桶屋が儲かることの理由付け」であった。「Aという現象が生じると、その結果としてBという現象が生じる、しかしAが生じるとなぜBが生じるのかその理屈がわかっていない」というようなテーマにとても惹かれた。
 私は、研究室の先輩院生や他の研究者との交流を通じ、糖代謝器官としての骨格筋の役割に興味を持つようになった。たとえば、骨格筋はインスリン刺激が加わるとグルコースを取り込む。また骨格筋は、運動(収縮)することでもグルコースを取り込む。そしてこれらの現象は、インスリンや運動が血糖値を急性的に低下させる主要な理由でもある。
 当時、インスリンも運動も、糖輸送担体GLUT4の細胞表面へのトランスロケーションを誘導することがわかっていた。そしてインスリン受容体を起点とする情報伝達経路については、insulin receptor substrate-1(IRS-1)、PI3キナーゼ、Aktなどが発見され、GLUT4トランスロケーションとの関連も次々と明らかにされていった。一方、運動がGLUT4トランスロケーションを誘導する経路はブラックボックスであり、わかっていたのはインスリン受容体やその近傍分子は関係しないということくらいであった。私は運動という「風」と、GLUT4トランスロケーションという「桶屋」とを結びつけるメカニズムを、できれば自分で見つけたいと思うようになった。
 幸いなことに、中尾一和教授の推薦を受けて留学助成が得られ、骨格筋代謝の研究を専門的に行っていたJoslin Diabetes CenterのHorton-Goodyear研究室で、1996年からポスドクとして研究ができることになった。研究室での自己紹介の時、「運動に関してのIRS-1やPI3キナーゼを見つけたい」という抱負を語ったように記憶している。そして次第にそれに向けた実験ができるようになり、1998年にDiabetes誌において、「AMPキナーゼ説」を筆頭著者として提唱するという幸運に恵まれた。
 骨格筋やAMPKキナーゼとの出会いは私にとってきわめて大きいものであった。その後現在まで、「骨格筋のAMPキナーゼ」は私の研究テーマであり続けている。
 落語では、「風が吹く」の次に「砂埃が舞い上がる」、そして「眼病が増える」と話がつながってゆく。「砂埃さえ起こせば桶屋が儲かるのではないか」、「砂埃が舞い上がるのなら、眼病が増える以外に別のことも起こるのではないか」というように、派生する思いは尽きない。実際のところ、「風が吹けば桶屋が儲かる」を常に意識することで、自分が面白いと思える研究を、今後とも続けてゆけるのではないかと思っている。